第2回 尖ったエンジニアのための法律基礎講座
shio.icon成蹊大学 塩澤一洋教授による法学基礎セミナー
「法律がいかに面白いかを皆さんに伝えるのが私のミッション」(shio)
nishio.icon発起人の西尾で〜す!
「法律ってそういうものなんだ!という実感を持ってもらえるようにする」(shio)
法律のイメージ(前回の動画を見ていない人の声)
硬い、難しい
一意に意味が取れない
地雷
おまけ(前回の動画を見た、前回出席者の声)
めっちゃ面白い!
結構体系的
自由が広がる
「法律は自由を最大化するためのツール」
自由と厳しさの最適なバランスを攻める
あれだけでかいとバグってそう
運用が大事(裁判を見て)
意外と柔軟
マクロ展開機能が欲しい
マウスオーバーで定義とか(そもそも定義されていないとか)出してほしい
開始前の雑談は別ページに括り出しときましたnishio.icon 条文はコードだ
法律=code
スパゲッティコード?
if (法律要件){法律効果}
サッカーのルールは何のため?
サッカーをするため
試合を面白くするため
安全性を保つ
なんでもありだったら相手を殴ったり蹴ったりできちゃう
公平
憲法14条
第十四条 すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
勝敗を決定するため
サッカーと何が違う?
プレーヤーの人数は1億2000万人
サッカーはボールが1個だけある
実社会でボールに対応するものは?
生存権
財産
財産とは何か
民法: 財産をパスするルール
財産は1個ではない、たくさんある
例えば?
お金
パソコン
服
この場で見ても結構たくさん持ってる
現実の世界でパスする対象の財産は人間の数よりもかなり多い
価値を個々に決める必要がある
誰がいつ決める?
欲しい人
あげる人
市場
裁判所
観測している自分自身
私があなたにカメラを売る時にどうやって価格が決まるか
私とあなたの交渉で決まる
民法は経済活動の基礎
財産とは何か
「家族が私の財産です」「へー、売るんだ」www
交換できるもの
感情や倫理はともかくとして,売り買いするor交換する人がいれば家族も売れるのでは? →家族=財産? #質問 第三編 債権 第二章 契約 第三節 売買 第一款 総則
民法555条
(売買)
第五百五十五条
売買は、
当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、
相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、
その効力を生ずる。
民法は
5編 総則, 物権, 債権, 親族, 相続
5階層 編 章 節 款 目
相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって
代金(金銭)でなければ成立しない?
ほとんどの場合ファウルやルール違反がおきないのでルールを意識する必要がない
買ったお茶に虫が入ってたら「変えてくれ」って思う
→民法415条
(贈与契約では財産と書かれてる話、ちょっと気になったけど脇道?)
私法と公法
知的財産権は私法の分野のもの
民法は私法の一般法
知的財産権を得て、それを例えば人に売るとすると、その時に使われるのは特許法でも著作権法でもなく民法である
民法は対等な人の間のやりとりを想定している
これはフィクションである
現実は不平等
そのためにローカルルール的に民法以外の法律が乗っかっている
Jリーグと小学校が対等ルールでプレイするとどうなる
法律を考えるときは抽象的ではなく具体的に考えて shio.icon
コートのサイズが大きすぎる、時間が子供には長すぎる
試合がつまらなくなる、一方的すぎて
負傷の危険がある:Jリーガーがトップスピードで走ったら危険
どうする?
試合を実施しないw
試合を実現してあげたい皆さんはどうする
Jリーガーの節度を求める→道徳に持ち込む
ハンデをつける
着ぐるみを着せさせる
Jリーガーが熱中症で倒れる
30秒ルールをつける
ボールを増やす
ボールに連続して2回しかタッチしちゃダメ
Jリーガーの入れるエリアを制限する
真ん中までしか行っちゃいけないとかw
ものすごく急な坂道にゴールを設置する
人数を変える
キーパーをなくす
Jリーガーは足を使わない
ハンデとはその試合だけに適用されるローカルルール
著作権法も特許法もローカルルールt
基本のルール(民法)があって、変えるところだけローカルルールに記述する
ローカルルールには基本ルールを変えない場合には何も書いてない
ローカルルールだけ読んでわかった気になってしまう人がいる
例
皆さんの著作権が侵害された
訴えてやる!
損害賠償請求
→著作権法には書いてない
民法709条に書いてある
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
差止請求: ローカルルール
これは民法にはない、著作権法、特許法にある
知的財産に特有のルールだから
著作権法
(差止請求権)
第百十二条 著作者、著作権者、出版権者、実演家又は著作隣接権者は、その著作者人格権、著作権、出版権、実演家人格権又は著作隣接権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。...
一般法:民法
特別法:それ以外のローカルルール
賃貸借契約601条
借地借家法
雇用契約
→労働契約法で
円滑に
試合が円滑に進むのが楽しい
ファウルなどなく
経済活動が障害なく進むのが良い
Q: 「民法のどの条文について修正しているのかってどうやって調べるのか」
A: 書いてない、何に対する書き換えか、という目印はほとんどない
そういう体系がわかるひとが司法試験に受かりうる
(shio)「みなさんもプログラムで何に対する書き換えかが明記されてなくても何に対する書き換えかわかるでしょ?」
民法には言葉の定義がないので解釈が法律家によって異なることがある
定義をしても定義をするのに使うものも言葉なので永遠に疑義が生じる
法律は抽象的に書いてある
法律は未来の社会に適用される。
本質的に厳密に書くことができない。(未来に起こることを厳密に予測できないから)
定義が循環していないことは保証されているのだろうか?
財産とは
民法
第八十五条 この法律において「物」とは、有体物をいう。
有体財産=物
第2編「物権」
民法に無体財産の規定はない
特別法に委ねられている
例えば
権利
知的財産権
財産の分類
有体財産 = ↑民法八十五条
無体財産
知的財産とは何か
(定義)
第二条 この法律で「知的財産」とは、発明、考案、植物の新品種、意匠、著作物その他の人間の創造的活動により生み出されるもの(発見又は解明がされた自然の法則又は現象であって、産業上の利用可能性があるものを含む。)、商標、商号その他事業活動に用いられる商品又は役務を表示するもの及び営業秘密その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報をいう。
基本からたどってきて知的財産の話になった
財産(=サッカーのボール)→無体財産→知的財産
知的財産のバラエティ
定義で列挙されてるものが、それぞれの特別法に対応している それぞれの性質に合わせたローカルルール
発明
→特許法
考案
植物の新品種
意匠
著作物
→著作権法
その他の人間の創造的活動により生み出されるもの(発見又は解明がされた自然の法則又は現象であって、産業上の利用可能性があるものを含む。)
商標
商号
その他事業活動に用いられる商品又は役務を表示するもの及び営業秘密その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報
特許権→出願→審査→登録
著作権→創作したら自動的に
(著作者の権利)
第十七条 ...
2 著作者人格権及び著作権の享有には、いかなる方式の履行をも要しない。
知的財産、知的財産権、知的財産法
知的財産: 著作物、発明、etc
「財産」だから取引の対象になる
「有体物」ではないので、形や重さがない
写真がプリントしてある紙は触れるが写真自体には触れない
PCの中には発明がいっぱい、でも触れない
Mine02C4.icon(余談ですが彫刻はどうなるんでしょう…?著作物としては無体財産?)
形が財産で.素材は触れるけど財産ではないのでは?
有体物である「石膏の塊」は有体財産として取引できる。民法による有体財産に対する規定だけでは、その石膏像を見てそっくりな見た目の彫刻を作る行為(パクり)は、財産を奪っているわけではない合法な行為になる。でもパクりから保護するために「見た目」だけでも財産として扱えるようにしたい、というわけで著作権法がそれを財産だと規定しているnishio.icon
確かに。パクリの保護から見ると無体財産を保護していますね。Mine02C4.icon
形や重さがないのに「財産的価値を感じて取引の対象にしている」
知的財産権
財産に対して所持している権利
著作物に対しては著作権 など
権利とは何か
所有権
(所有権の内容)
第二百六条 所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する。
売る
誰かに渡す 贈与
窃盗者から守られる
私があなたのPCを取ろうとしたら
「👊やめて!」
nishio.icon取ろうとした人を殴ることが法的にOKかどうかってのもなんらかの法律によって規定されている(刑法かな)
Mine02C4.icon殴る行為(傷害?)の違法性が阻却されるかにかかってきそうです。(どこまで許容されるかは判例などを見ないととかでしょうか…
刑法第37条
自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為は、これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り、罰しない。ただし、その程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。
取られたら
「返して!」
所有権とは
第二百六条 所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する。
他者に対して請求や主張が正当化される法的根拠
権利を持つことは、マネジメントを行えること
財産を一人ひとりが所有することで、各自がマネジメントし、全体的に見ての価値を高めてくれると想定している
私有財産権
知的財産制度の本質
無体財産にも価値を認めて、その権利を売買したりして、マネジメントしていく
Q: 知的財産制度は何のためにあるのか?
ここまで話してきた財産的観念は置いといて
国からイノベーションを起こすため
発明に特許権を与えることによって、人々に発明をするインセンティブが生まれるだろう、その結果イノベーションが起きていく
生み出した労力に報いるため
「額に汗理論」頑張ったから権利をあげましょう理論
零細企業を守る
お金を持っていなくても頭だけで勝負ができる社会を作る
色々な人が見られるようにしてみんなの発展につなげる
share: これが根幹にある
共有・公有
みなさんがプログラムを書けるのは独力ではなく、巨人の肩に乗っている
ということは生み出したものも人類のものとして共有することで、次の人が新たな発明・著作ができる
秘密にしているとこの効果がない
坂本龍一「自分が生み出した付加価値は5%もない」
特許法の目的と構成
特許法
(目的)
第一条 この法律は、発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もつて産業の発達に寄与することを目的とする。
(出願公開)
第六十四条 特許庁長官は、特許出願の日から一年六月を経過したときは、特許掲載公報の発行をしたものを除き、その特許出願について出願公開をしなければならない。次条第一項に規定する出願公開の請求があつたときも、同様とする。
公開する
shareするためにやっている
社内で秘匿して企業秘密にすることも可能
同じことを他の会社が同様の投資をしてそれぞれ作る
全体としてみると同じことに別々に研究投資をしていて非効率
shareされることによって富が最適に使われる
著作権法の目的と構成
著作権法
(目的)
第一条 この法律は、著作物並びに実演、レコード、放送及び有線放送に関し著作者の権利及びこれに隣接する権利を定め、これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与することを目的とする。
著作権法がなければどんなに素晴らしい小説を作っても、丸腰、パクられる
素早く名声を得られれば別だが
出すことを躊躇する
nishio.icon特定の時刻に存在していたことを証明するウェブサービスを作って真っ先に登録した人が著作者だとなる状況を作ろうw
nishio.icon著者の氏名を書き換えたらバイト列が変わるw
Mine02C4.iconですね…。機械的にはできないので、内容を人間が比較する前提で主張することしかできないですね。
OSSは?
「ライセンスを守れ」とユーザに主張できる法的根拠は何か=そのソフトウェアの著作権を持っているからnishio.icon
国によって制度が異なるとはいえ、最初の時点で権利を持っているのは多くのコントリビューターなので、例えばライセンスの切り替えなどをする際には、OSSコミュニティになんの権利を譲渡したのかは揉めそうですね…Mine02C4.icon
FSFなどは明示的に著作権を譲渡させているnishio.icon
逆に言えばOSSに対するコントリビュートを受け入れる際にそこのところをちゃんとやっておかないと、その後のライセンス変更が実質的に不可能になる(共同著作物になってしまい、全著作者の合意を取らなければいけなくなるから)
知的財産権は独占権みたいなもん
権利というのはそもそも独占的性質がある
独占するのも他人に使わせてあげるのも自由
使わせてあげて使用料を取るのも自由
財産自体を独占するのではなく、その財産はshareして、その上がりを独占する
著作物も発明も公開されている
特許権は産業の発達、著作権は文化の発展、何が違う?
著作権法にも特許法にもこの文言の定義はない
大前提として法律マターに正解はない
正解があったら裁判をする必要はない
裁判は3回できる
地裁、高裁、最高裁、で違う結論がでる
4回以上やっても無限に違う結論が出る
発達は良い悪いがあるが発展はそうでもなさそう
モンゴルの町の7割がプリウス
世代が上がるごとに燃費がどんどん良くなっていく
値段や見た目が同じなら燃費の悪い第一世代を買う人はいない
発達した技術が出てくると過去の技術が価値を失う
発達の世界においては古いものが新しいものに置き換わっていく
文化の発展
「きよしこの夜があるからジングルベルはいらないや」ってならない
著作物間に優劣関係がない
nishio.icon僕的には、ソフトウェアは著作権法の範囲なのに、バージョンアップすると古いものが使われなくなるので、現状の著作権法の平面的に広がっていく「発展」の感覚はしっくりこない
Mine02C4.icon著作権法で保護されるのは例えばアルゴリズムなどのような技術的なものではなく、その表現である「ソースコード」や「ソフトウェアバイナリ」のはずなので、同じアルゴリズムでも多くの実装があることが「発展」になるのではと。
nishio.iconなるほど、確かに>同じアルゴリズムでも多くの実装があることが「発展」
いろんなプログラミング言語で実装したり、良い変数名を工夫したりするか
「内容の優劣を問わない」
nishio.icon確かに既存のものから劣ってるものは特許とれないなぁ>進歩性要件
意味合いは多少変わってうまい言葉が見つからないけど,「発達」は"有体"で「発展」は"無体"なのかな?と感じる
例えば,産業の発達は技能が向上したなど産業の有体である人間にかかっている言葉で,産業の発展は,地続きではない?他の手法にスイッチした?有体ではなく産業という無体にかかっている言葉な気がする
発達が連続性を持っていて,発展が連続性を持たない切り替えである?
著作権法はコピーをしたものに価値を認めない
数が多くなること(増分)に価値を認めている
多様化することを重視している
特許と著作権法はどちらもshareをしたいのだが、その目的が少し違う
だから仕組みが違う
著作権法は審査しない、だって良し悪しを問わないのだから
nishio.iconなるほど!
契約はマイルール、アワールール
未踏クリエータになるにあたって契約書を(全部)読んだ?→1割くらい
ローカルルールの究極:契約
当事者の間だけのローカルルール
民法・著作権法などに書かれてないことを決めたいときに書く
明示するためにあえて書くこともある
契約書18条2
2 乙が前項柱書所定の書面を提出しない場合、当該知的財産権は、各権利ごとに、その発生の 時に乙から甲に当然かつ自動的に譲渡されたものとみなし、乙は、甲からの要求があり次第遅 滞なく、登録その他の手続きに協力しなければならない。なお乙は、本契約締結日の後に、前項柱書の書面を提出することはできないものとする。
みなさんがちゃんと書面を出さないと自動的にIPAに譲渡される契約ですよwnishio.icon
「👊やめて!」
いやいや、やめてっていう法的根拠ないでしょwnishio.icon
条文の構成と構造
債務と債権はどうして生じるか
第3編債権の中に「契約」がある
IPAに対して〜をしなきゃいけない、という「債務」を負う
IPAもあなたに対して〜をしなきゃいけない、という「債務」を負う
債務は何かなって考えるのが契約を読むコツ
法律用語の「みなす」=本当はそうではないけど、そうであると扱う
具体的には「遅滞なく、第 20 条の規定に基づいて、その旨を甲に報告する。」が(1)にあるので、ちゃんと報告してね、ってことが言いたかったですnishio.icon
まあでも、脅かされてだいぶ「読んでみよう」って気持ちになったのではないかなwnishio.icon
「乙が前項柱書所定の書面を提出しない場合」のところだけ読んでて「これを使って"ちゃんと提出しようね"って言おう」と思って紹介したのだけど、「なお乙は、本契約締結日の後に、前項柱書の書面を提出することはできないものとする」って確かにおかしいなと先生に言われてから気づいた...nishio.icon
「前項柱書所定の書面」は「(1)〜(4)のすべてを遵守する」って旨の様式第7による書面
(1)で要求されているのは「様式第 8 による産業財産権出願通知書」
様式8は出願の日から60日以内に出せと20条に書かれている(これを契約前に出せと言っているわけではない)
様式7は多分手続きの流れ作業の中で出してるのだろう(と思いたい)
これがなぜか契約締結後には出すことができない
もし万が一出していないクリエータがいた場合、困ったことになりそう。
採択者が契約に必要な書類を揃える→それに基づいてIPAが(両者が押印する)契約書と確認書(様式第7)を作る→採択者が押印する→IPAが押印する、で契約完了というのが契約処理の一連のプロセスなので、「出していない」という状況にはなりえません。様式第7が出ていなければ最後のIPAの押印がされないので。
債務と責任
逆に、市場を独占したいのならば発達を目指さないといけないのかな?
独占した場合には、その立場によって競争を阻害しないことは求められるかと思いますが「発達」の義務はないのではないかと?Mine02C4.icon
/icons/-.icon
前回分の復習
法律のイメージは?
法律とサッカーのルール
自由と不自由
校則と拘束
憲法と法律の共通目的
憲法と法律の機能的相違
私法と公法
ルールは作るもの、変えるもの
赤信号 みんなで……
民法と刑法
最初に見るべきものは必ず目次
総則が重要
民法マンション
民法は一般法、著作権法は特別法
民法の目的
条文は法律要件と法律効果
法律要件と法律効果はifとthen
code:C
if(当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し && 相手方がこれに対してその代金を支払うことを約する){
売買の効力を生ずる。
}
法的三段論法